「S&P500やオルカンが伸びているのは、実際のインデックス投資の成果ではなく、円安で円換算額がかさ上げされているだけ」——
SNSでよく見かける主張です。確かに為替の影響は無視できません。
この記事では、ドル建てリターン・為替メリットを除いた円換算リターン・円高シナリオの3つを実際に試算しながら、
「円安効果を取り除いてもインデックス積立は十分な成果を出せるのか?」を検証します。
目次
① なぜ為替が積立成績に影響するのか
S&P500やNASDAQ100に投資する投資信託は、中身が米ドル建ての株式です。 eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)も、私たちは円で買っていますが、ファンド内部ではドルで米国株が保有されています。 このため、最終的な円換算の損益は次の2つの要素の掛け算で決まります。
円換算リターン ≈ ドル建てリターン × ドル円レートの変化率
たとえば、S&P500がドルベースで+50%上がり、その間にドル円が1ドル=110円→1ドル=150円に動いた場合、 円換算では「+50%(株価)× +36%(為替)≒ +104%」と、為替分が上乗せされます。 これが「円安が円建てリターンを押し上げる」メカニズムです。
オルカン(全世界株式)も構成銘柄の約60〜65%が米国株なので、ドル円の影響を強く受けます。 つまり、新NISAで主流のインデックス投信は、本質的に「米ドル資産」であり、為替の影響からは逃れられません。
② 過去20年のドル円と積立シミュレーション
実際にドル円がこの20年でどう動いたか、ざっくり振り返ってみましょう。
| 時期 | ドル円(おおよそ) | 市場環境 |
|---|---|---|
| 2005年 | 約110円 | 小泉政権・米国経済拡大期 |
| 2011年 | 約76円 | 超円高(震災後・歴史的水準) |
| 2015年 | 約120円 | アベノミクスで円安進行 |
| 2020年 | 約105円 | コロナ禍で一時的に円高方向 |
| 2024〜2025年 | 約150〜160円 | 日米金利差拡大で歴史的円安 |
※ 2026年5月時点での概算。実際の日次レートはこれより細かく変動しています。
注目してほしいのは、20年スパンで見るとドル円は「円高 → 円安 → さらに円安」と上下に大きく動いている点です。 2011年に積み立てを始めた人は超円高(76円)でドル資産を仕込めた一方、2015年スタートの人は120円台から、 2024年スタートの人は150円台から、それぞれ異なる為替水準で買い始めています。
ここからわかるのは、「為替の影響は開始タイミング次第」ということ。 そして毎月積立(ドルコスト平均法)を続けていれば、円高局面・円安局面の両方で買付けることになるという事実です。
③ 為替メリットを除いたリターンを計算する
「円安のおかげで増えただけ」と言われたら、本当にそうなのかを数字で確かめてみましょう。 ここでは「ドル円がスタート時の水準のままで動かなかった」という仮定で円換算リターンを再計算します。
S&P500・月3万円・10年積立(2015年5月開始)の比較
| シナリオ | 2025年4月末時点の評価額 | 対元本損益率 |
|---|---|---|
| 元本(積立合計) | 360万円 | ±0% |
| 実際の円換算(為替変動あり) | 約920万円 | +156% |
| 為替を120円で固定(円安効果を除外) | 約735万円 | +104% |
| ドル建てリターンのみ(為替影響ゼロ) | 約735万円相当 | +104% |
※ 2026年5月時点での試算。「為替を120円で固定」は積立開始時の概算レート。実際のシミュレーターでは月次レートが反映されます。
ここから読み取れる事実は次のとおりです。
- 実際の円換算リターン+156%のうち、純粋なS&P500の上昇(ドル建て)は約+104%を占める。
- 残りの約+52ポイントが「円安によるかさ上げ分」。
- 仮に円安効果をすべて取り除いても、10年積立で元本360万円が約735万円と、元本の2倍を超えている。
つまり、円安は「ボーナス」として乗っかってはいるが、それを差し引いても積立投資はしっかりプラスになっています。 「円安のおかげで増えただけ」という主張は、事実の半分しか見ていないと言えます。
④ これから円高に振れたらどうなるか
逆に、これから円高が進むケースも考えておきましょう。 現在約150円のドル円が、将来120円・100円に戻った場合、 すでに保有している米国株インデックスの円換算評価額は当然下がります。
仮定:すでに900万円相当(評価額)まで積立てた人のシミュレーション
| 将来のドル円 | 円換算評価額の変化(株価不変の場合) | 影響 |
|---|---|---|
| 150円 → 140円 | 約840万円 | 約−7% |
| 150円 → 120円 | 約720万円 | 約−20% |
| 150円 → 100円 | 約600万円 | 約−33% |
※ あくまで「ドル建て株価がまったく動かない」という極端な仮定。実際は株価変動と為替変動の両方が同時進行します。
この数字だけ見るとぞっとするかもしれませんが、ポイントは2つあります。
- ① 円高局面ではこれから買うドル資産が「割安」になる。 毎月積立を続けていれば、円高になるほど同じ金額で多くの口数を仕込めるため、長期的にはむしろチャンス。
- ② 株式の長期リターンは為替変動より大きい。 過去20年のS&P500はドル建てで年率平均+9%前後。10年で約2.3倍に成長しています。 為替が10〜30%動いても、株価の長期成長が為替の振れを吸収する余地は十分にあります。
過去の円高局面で積立を始めた場合を試す
つみたてタイムマシンでは、過去の超円高(2011〜2012年)から積立を始めたケースもシミュレーションできます。 「もし円高のときに始めていたら?」を、実際の過去データで確認してみましょう。
⑤ 「円安のおかげで増えただけ」への反論
ここまでの検証を踏まえ、「インデックス投資の成果は円安のおかげにすぎない」という主張に 正面から反論してみます。論点は4つです。
反論①:円安メリットも円高リスクも、ぜんぶ含めて「インデックス投資」である
外国株インデックス投信を買うということは、「ドル建て株式 × 為替」のセットを買うことそのものです。 為替変動を「不当なボーナス」のように切り離して考える発想は、商品設計と一致しません。 自動車を買って「タイヤなしで価格を評価しろ」と言うようなものです。
そして為替リスクは双方向です。円安局面ではリターンに上乗せされ、円高局面ではリターンを削ります。 長期投資家は「両方の局面を経験する前提」でインデックスを保有しており、 直近の円安局面だけを切り取って「不当な利得」と評価するのは公平ではありません。
反論②:為替効果を除いてもリターンはしっかりプラス
前述のとおり、為替を固定したシミュレーション(円安効果ゼロ)でも、 S&P500の10年積立は元本360万円→約735万円(+104%)になっています。 オルカンでも同様で、為替効果を除いたうえでも長期積立は十分なリターンを生んでいます。 「円安がなければ意味がなかった」という強い主張は、数字で見ると明確に誤りです。
反論③:ドルコスト平均法は円安・円高をどちらも経験する
毎月一定額の積立を続けるドルコスト平均法では、円高のときには多くの口数を、円安のときには少ない口数を 自動的に買い付けます。これは為替に対しても平均化の効果が働くということです。
直近の円安水準だけで全口数を仕込んだわけではありません。 ある人が2015年〜2024年まで毎月積立を続けたなら、105円〜160円までさまざまな為替水準で買付けが分散されています。 「160円で全額買った」とは性質がまったく違うのです。
反論④:長期では為替よりも企業の成長が支配的
ドル円は過去30年で76円〜160円の間を動いてきました。振れ幅としては約2倍です。 一方、S&P500はドル建てで30年間に約13倍に成長しています。 長期で見れば、為替の影響よりも企業の利益成長や指数の構造的な拡大のほうが、はるかに大きな影響を持つのです。
「為替の影響を除くと株式投資は意味がない」というロジックは、20〜30年の時間軸で見ると成立しません。
結論:「円安のおかげ」も確かに一部寄与しているものの、それを差し引いてもインデックス積立は十分な成果を上げています。 為替は双方向に振れるリスク兼ボーナスであり、長期積立家はそれを織り込んだうえで「世界経済の成長」に賭けているのです。 円高局面が来てもパニックにならず、むしろ「いつもより安く仕入れられる時期」と捉えて積立を続けることが、長期的には合理的です。
⑥ まとめ:為替も含めて長期で考える
この記事のまとめ
- 米国株インデックスの円換算リターン ≈ ドル建て株価変動 × ドル円変化率
- 直近10年の円安は確かにリターンを押し上げているが、為替を除いてもS&P500積立は+100%超え
- これから円高が進めば、すでに保有する分の円換算評価額は下がるが、新規買付の口数効率は上がる
- ドルコスト平均法は為替に対しても平均化が働くため、「円安だけで儲かった」とは言えない
- 長期では企業の成長が為替変動を上回るスピードで進む
- 為替は「不当なボーナス」ではなく、外国株投資の本質的な構成要素である
つみたてタイムマシンでは、為替変動を含む円換算ベースで実際の過去データを使ったシミュレーションができます。 「2011年の超円高時に始めていたら」「2024年の円安ピークに始めていたら」など、開始時期を変えて比較してみると、 為替の影響が思っているほど絶対的ではないことが直感的につかめるはずです。
為替の影響を「実際の過去データ」で確認する
つみたてタイムマシンでは、ドル円レートも反映した円換算ベースで、 S&P500・オルカン・NASDAQ100の過去の積立成績をシミュレーションできます。 開始時期を円高期・円安期で切り替えて、為替の影響を体感してみましょう。
本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入・売却を推奨・勧誘するものではありません。 記事内のデータ・試算値は過去の実績や仮定に基づくものであり、将来の投資成果を示唆・保証するものではありません。 投資判断はご自身の責任において行ってください。